水路の痕跡を探る エキマチ水路サイクリング

江戸時代、江戸城は水路に囲まれた水の都だった。
今ではだいぶその面影はなくなったが、実はひっそりとその痕跡を見ることができる。
東京駅を挟んで西へ東へ、自転車で探索する楽しみを荻窪さんに解説してもらった。

文・写真=荻窪 圭

 徳川家康が入部した1590年(天正18)頃、江戸城の前(丸の内あたり)は湿地や入り江で城下町に不適切な場所でした。それを逆手に取り、川の流路を変え、埋め立てや掘削を行わせて、水運に優れた都市を造ったのが家康。水路を利用し、日本中の物資が集まる商業城下町に作り替えたのです。
 そんな水路も、流通が船から鉄道や車に代わり、第2次世界大戦などの瓦礫で埋め立てられ減っていきます。高度成長期には残った水路が首都高速道路用地に使われ、水の都らしさは消えましたが、痕跡は残っています。
 今回はそんな水の都時代に思いを馳せつつ、今でも残る江戸城の堀、首都高と共存する日本橋川、暗渠(あんきょ)となった町人エリアの龍閑川や西堀留川、そして水路がそのまま首都高速道路になった楓川や京橋川と、丸の内から京橋まで自転車で巡りました。
 川跡に残る古い橋の親柱や欄干、江戸時代の迷子石標を探すのもオススメですが、武家の街である江戸城前から町人の街である日本橋~京橋エリアへ、という流れを意識するとより楽しめるでしょう。
 武家エリアも今はビジネス街。皇居となった江戸城址とは濠で隔てられていてその対比がたまりません。
 日本橋川の神田橋あたりは江戸城築城時の物資が荷揚げされた場所でした。これが日本橋に近くなると武士の街から町人の街、ビジネス街から商業の街へと切り替わります。
 龍閑川の川跡は今でも裏通り的なテイストを残しており、古い民家や小さなお店、地域の小さな稲荷神社がちらほらと残ります。
『三越』がある室町には、西堀留川という物資を運ぶ小さな川が掘られました。塩問屋が集まる塩河岸や瀬戸物職人が集まる瀬戸物町と、街の名前も町人っぽくなります。再開発できれいになっても、神社や、鰹節や海苔、佃煮の老舗が残っています。
「点」で存在する史跡を「線」でつなげられるのが自転車のよさ。とくに水路は線で捉えてこそ実感できます。かつて川だった道で橋の跡に出合うのもオツですし、橋の上から首都高を見下ろして、水が流れていた川の上を今は車が流れていると思うと、江戸時代も今も、地続きなのだなと感じ取れるでしょう。

    • ①物揚場(ものあげば)跡

    ①物揚場(ものあげば)跡

    神田橋は神田への入り口という意味の橋。歴史は古く、橋のたもとでは江戸城建築資材などを運んでいた物揚げ場を示す標石が出土した。

    • ②龍閑橋(りゅうかんばし)親柱と龍閑川跡
    • ②龍閑橋(りゅうかんばし)親柱と龍閑川跡

    ②龍閑橋(りゅうかんばし)親柱と龍閑川跡

    龍閑川は人工の堀で千代田区と中央区の区境となっている。今は埋め立てられ、流路は狭い路地に。今川焼き発祥の地との説もある今川橋も龍閑川に架かっていた。

    • ③西堀留川跡

    ③西堀留川跡

    室町の盛り場に物資を届けていたのが西堀留川。その終点に平安時代には鎮座していたという福徳神社がある。昔も今も商いの街だったのだ。

    • ④日本橋

    ④日本橋

    江戸時代、五街道の起点であり、多くの店で賑わった日本橋(その一つが三越の前身である越後屋)。今でも日本の道路の中心地。

    • ⑤一石橋(いっこくばし)「迷子しらせ石標」

    ⑤一石橋(いっこくばし)「迷子しらせ石標」

    一石橋のたもとにある江戸時代の「迷子しらせ石標」。「まよい子のしるべ」と書かれている。現存するのはこれだけという貴重な石標。

    • ⑥楓(もみじ)川と首都高

    ⑥楓(もみじ)川と首都高

    エキマチエリアの首都高はほとんどが川跡。ここは楓川の跡で、水の代わりに車が流れても、昔の橋のいくつかはそのまま残っている。

    • ⑦京橋跡

    ⑦京橋跡

    京橋は京橋川に架かっていた東海道の橋。現在は、川跡の上を首都高が。橋跡には明治と大正時代の親柱が残されている。

    • シェアサイクルを利用しよう!

    シェアサイクルを利用しよう!

    自転車での散策にはシェアサイクルが便利だ。会員登録すれば、すぐに利用可能。エリア内に複数設置されている専用ポートであればどこでも自転車を借りたり、返したりできる。エキマチエリアでは「ちよくる」「中央区コミュニティサイクル」の2種が利用可。

    • 案内人 荻窪 圭さん

    案内人 荻窪 圭さん

    ITと古地図散歩に強いライター。各媒体に連載、カメラレビュー、スマホ記事など執筆。新潮講座「東京古道散歩」講師。著書は『東京古道探訪』(青幻舎)ほか歴史散歩系が中心。

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