「平成」駅弁物語

東京の玄関である東京駅には、日本各地の駅弁が集います。
激動の平成、駅弁も世の中のトレンドや技術革新を取り入れ変化していきました。
平成にはどのような駅弁が楽しまれたのか、日本鉄道構内営業中央会事務局長・沼本忠次さんにお話を伺いました。

沼本忠次
1947年、静岡県生まれ。国鉄、JR東日本勤務を経て、2009年から日本鉄道構内営業中央会勤務。現在、事務局長を務める。駅弁への造詣が深く、雑誌や新聞、ウェブメディアなどへの寄稿も多数。

編集協力=小野 和哉(都恋堂) 取材・文=屋敷 直子 撮影=田中 亜玲(人物)

写真提供=日本レストランエンタプライズ(①②④⑤⑥⑧⑨)、新杵屋(③)、淡路屋(⑦)

ロングセラー駅弁を生んだ昭和時代

 駅弁は鉄道と二人三脚ですから、鉄道網の広がりとともに駅弁もそのスタイルが変わっていきます。
 昭和30年代、電化区間や特急の本数が増えてくると、旅行する人も多くなり、土地ごとに駅弁が発売されるようになります。シウマイ弁当(昭和29年発売/横浜・崎陽軒)、峠の釜めし(昭和33年発売/横川・おぎのや)などが有名ですね。この頃は、味はもちろん、おなかを満たすことも大事でしたが、駅周辺や構内には他に店もないから、選択肢も限られていました。
 今でこそ、東京駅では全国の名物駅弁が売られていますが、実は「東京駅の駅弁」というのはそれほど多くありません。東京は起点の駅であって、旅に出るとなれば沿線のおいしいものを食べたいですから、駅弁を買うなら旅先になるわけですよね。東京の駅弁として歴史が長いものでは、チキン弁当(①)、深川めし(②)に根強い人気があります。

味も形も食べ方も、より多彩になってきた

 平成になると、コンビニや駅構内の店も増えて、車内で食べるものがいろいろ選べるようになってきます。そこで付加価値がある、グレードアップした駅弁が出てくるようになりました。旬の食材や地元の名産品を使ったもの、温められるもの、容器にひと工夫あって保存したくなるものなどです。
 鉄道の話題としては、山形、秋田、九州、北陸、北海道と、多くの新幹線が開業して、列車がスピードアップしました。それらの新幹線の起点となる東京駅では、大人の休日弁当(④)、東京弁当(⑤)、30品目バランス弁当(⑥)など、東京の老舗の味を生かしたものや、健康志向の駅弁が発売され、ヒットしました。
 一方で、乗車時間が短くなったため、駅弁は車内で食べるだけでなく、おみやげとして家に持ち帰ったり、会社で会議用の弁当にしたりと、車外での需要も広がってきています。
 全国的な傾向としては、平成は牛肉どまん中(③)など肉系のものが増えました。肉はやはり温かい方がいいですよね。その流れで、神戸・淡路屋のあっちっち弁当シリーズ(⑦)が注目を集めます。石灰と水の化学反応で蒸気と熱を発生させ、ほかほかな弁当が食べられるのは画期的でした。
 コラボ、共同開発といった「企画もの」も、多く発売されました。アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』とのコラボ新幹線が運行されたのに合わせて、車両をイメージした「新幹線:エヴァンゲリオンプロジェクト弁当」(神戸・淡路屋/販売終了)や、女子高生との共同開発で注目された「百々(もも)」(横浜・崎陽軒/販売終了)などです。また、製造元が廃業してしまった駅弁を復活させた「松山名物 醤油めし」など、昔の味を引き継ぐ試みもあります。
 最近では、外国人旅行者も意識した駅弁にも力を入れています。例えば、菜食弁当(⑧)、三元豚とんかつ弁当(⑨)といった、肉や野菜系のものが人気です。
 駅弁は、味、彩り、容器などバラエティーに富み、しかも衛生管理がしっかりした安心安全な弁当です。東京駅構内にある『駅弁屋 祭』には日本各地から名物駅弁が集まり、現在、毎日150~200種類を販売しています。さまざまな土地の味を、「エキマチ」で堪能してください。

    • ①チキン弁当/900円/日本ばし大増

    ①チキン弁当/900円/日本ばし大増

    東海道新幹線の開通時に発売。トマト風味ライスと鶏の唐揚げの組み合わせが絶品。※写真は平成29年10月に発売された復刻版

    • ②深川めし/900円/日本ばし大増

    ②深川めし/900円/日本ばし大増

    うま味たっぷりの深川煮と煮穴子が茶飯に載る。小なす漬けも良いアクセントに。※写真は平成29年10月に発売された復刻版

    • ③牛肉どまん中/1250円/新杵屋

    ③牛肉どまん中/1250円/新杵屋

    米は山形県産「どまんなか」。その上に牛そぼろと牛肉煮が載る。山形新幹線開業の翌年に販売開始。※写真は平成31年のもの

    • ④大人の休日弁当/2000円/日本ばし大増

    ④大人の休日弁当/2000円/日本ばし大増

    季節ごとにメニューが変わる懐石弁当。風呂敷で包まれ、2段重ねで、彩りも美しい。※写真は平成30年のもの

    • ⑤東京弁当/1680円/日本ばし大増

    ⑤東京弁当/1680円/日本ばし大増

    東京駅限定。浅草今半、日本ばし大増、魚久など、東京の老舗の味が詰まっている。※写真は平成19年のもの

    • ⑥30品目バランス弁当/950円/日本ばし大増

    ⑥30品目バランス弁当/950円/日本ばし大増

    煮物、揚げ物、焼き物など、魚・肉・野菜がバランス良く30品目入ったヘルシー志向の弁当。※写真は平成19年のもの

    • ⑦神戸のあっちっちステーキ弁当/1350円/淡路屋

    ⑦神戸のあっちっちステーキ弁当/1350円/淡路屋

    ひもを引き抜いて数分待てば、柔らかいステーキの出来上がり。すき焼き弁当などもある。※写真は平成24年のもの

    • ⑧菜食弁当/930円/日本ばし大増

    ⑧菜食弁当/930円/日本ばし大増

    肉や魚、乳製品、卵などの動物性食材を使用しておらず、NGOによる「ヴィーガン認定」を受けた弁当。※写真は平成29年のもの

    • ⑨三元豚とんかつ弁当/1080円/日本ばし大増

    ⑨三元豚とんかつ弁当/1080円/日本ばし大増

    ジューシーで肉厚なトンカツと、ポテトサラダが入るシンプルかつ王道の一品。※写真は平成30年のもの

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