地図上の「境」にはロマンが詰まっているという。
境界観察の達人、西村まさゆきさんの案内で、中央区と千代田区の区境を歩いて、境目を示す手がかりを探してみました!
編集協力=小野 和哉(都恋堂) 撮影=荒井 健、中村 宗徳
地下街は区境がどんどん不明瞭に......!?
東京駅周辺では、千代田区と中央区の区境は、八重洲中央口のバスターミナルと外堀通りの間ぐらいを、突き抜けて南下している(写真(13)・(14))。この辺りは、もともと外堀だったため、この場所が区境になっている。かつての麴町区(現・千代田区)は、江戸城の外堀が区境となっており、現在も神田区と合併した一部を除いて、境目がそのまま区境として受け継がれている。
八重洲周辺の区境は、地表だけではなく、ヤエチカ(八重洲地下街)にもあるはずだが、見た目で分かるような、はっきりしたものがない(写真(15))。
調べてみると「グランルーフフロントは千代田区」「ヤエチカは中央区」といったように、住所は地下街によって分けられているようだが、中央区に確認してみたところ、ヤエチカは区境が決まっていないので、あくまで便宜上の仮住所なのだそうだ。
ヤエチカから地上に出て、少し南に行ったところにある『銀座インズ』も、外堀を埋め立ててできた商業施設であるが、ここも区境がはっきりと決まっていない。
このため『銀座インズ』のパンフレット(写真(19))に書かれている住所は「銀座西2 ―2先」といった、すでに消滅した丁名「銀座西2(2丁目)」を便宜的に使っている。
ただ、大まかな境界は真ん中辺りに設定されているようで、一部、千代田区と中央区のコーンが並んでいる境界鑑賞にうってつけの風景も存在した(写真(20))。
もともとは堀だった千代田区の区境をたどっていくと、『銀座インズ』の南の『コリドー街』と呼ばれている辺りの、新幹線と高速道路の高架の谷間に、かつての堀がそのまま空堀状態で残っている窪地がある(写真(21))。もちろん、ここも千代田区と中央区の区境である。土地の高低差が分かる陰影段彩図で見ると、その部分だけ真っ黒になっているのが見て取れる。都会の谷間にぽっかりとお堀の痕跡が残っているのを発見できるのも、境界線ならではの面白さと言える。
このように、境界を丹念に見ていくことにより、そこに町の歴史や人々の暮らしといった、人間の社会活動のダイナミズムを感じ取ることができるのだ。
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(13)
リニューアルした鉄鋼ビル。地図上ではこの横を区境が走っているが、この辺りになってくると境目を表す明確な形跡が見当たらない。なんでもないラインが区境のように見えてきて「区境ノイローゼ」状態に陥る。
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(14)
地図上ではここが区境のはずだが、それを示すものは一切ない。
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(15)
東京駅の前でヤエチカ(八重洲地下街)に潜る。地下街にも境界があるはずだが、床タイルの色が変わっている所がそれっぽい。基本的に店の住所は、ヤエチカは中央区、隣接するグランルーフフロントは千代田区、という区分になっているようだ。
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(16)
地図上では「中央区」にある店だが、店名が「CHIYODA」。区境視点で見ると面白いスポットだ。
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(17)
ヤエチカにあるお店の管理者標識を見て住所を確認。地図上では千代田区側のセブン-イレブンだが、「中央区八重洲」と書かれている。レシートの住所表示も「中央区」だ。
隣のサウスタワーのファミマ!!は地図上の「千代田区」。地下に関しては、地上と異なり、施設がどの区に属するかで、住所が変わってくるようだ。 -
(18)
地上に出て再び南を目指す。「道界」(道路の境界)を示すものはあるが「区境」を示す目印は見当たらない。
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(19)
銀座インズのパンフレットを見ると住所に「先」の文字が。住所が確定していないので、住所の「先に」ある場所という意味で「先」が付いている。区境もあやふやだ。
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(20)
そんなインズで区境が分かる場所を発見! 駐車禁止のコーンが、中央区と千代田区に分かれている!
近くの案内板には区境がはっきりと書かれているが、区境が決まっているわけではない。 -
(21)
高架の谷間に、謎の高低差が! 実は昔の堀の深さをそのまま残している場所。区境ミステリーゾーンだ。ちなみに私有地なので入れません。
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西村まさゆき
鳥取県出身。「境界」「路線図」など、ニッチなテーマをディープに追い掛けているフリーライター。著書に『ふしぎな県境―歩ける、またげる、愉しめる』(中公新書)。