東京エキマチ vol.60

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- 「エレガント人生 」 による、 東京エキマチエリアを
YouTubeのチャンネル登録者数56万人を超えるコンビ
舞台にしたショートストーリー。
エレガント人生
山 井 祥 子、中込 悠 によって2020年
を集めるYouTube「エレガント人 生
結成。繊細な人物描写が多くの共感
として初の著書「酔い醒めのころに」
チャンネル」はほぼ毎日更新。コンビ
(玄光社)が販売中
帰 り と 分 けて 食べよ う と 思って
な ん て こった、 こ り ゃ う まい。
て、 歯 を 入 れ る 感 触 も 楽 しい。
よ り も とに かくしっと り してい
産 用に 買った もの を 自 分で 食べ
り だ か ら … … 。 ま さ か、 お 土
よ ね。 なのに、 ま た? え ーっ
と、 今 は 時 間 帯 的 に 恐 ら く 帰
メ ー プルカスティー ラ 買って た
も そこで 食べさ せて も らった ら
買っていったの。 そ れで ね、 私
「この メ ー プルのカステ ラ ね、
前に 名 古 屋のお 友 達にお土 産で
た。
や かで 品の 良い声 が 聞こ えて き
東 京 駅 限 定の君
いた六個 入 りのそれは、 新 幹 線
足 そ う と し て い るって こ と?
ちゃって、 さ らに 自 分 用に 買い
魔の さ さ や き を 必 死 に 振 り 払
の 分 も 食べてし ま え 」 という 悪
がある、ということだ。
坊!」と思われてしまう可 能 性
や だ、 と ん で も ない 食い し ん
てるよな。俺も素直に、正直に
に 来 たのよ 」 「 えぇ、 本 当です
か? すっごくうれしいです!」
…… そ う だ よ な。 店 員 さ ん
は、 そ ん なの う れ しいに 決 まっ
いっそ、“ 甘い もの が 好 き そ
う”な顔に生まれたかった。
交 うこの東 京 駅に おいて、 恐 ら
希 望、 歓 喜、は た ま た 絶 望。
さ ま ざ ま な 想い や 感 情 が 行 き
形 も 無 く なってい た。「 取 引 先
が 静 岡に 差 し 掛 かる 頃に は 跡
眉 頭をかいた。
い、 あ る 決 意 を 胸 に一泊二日の
訳で も ないの だ が、 気 がつくと
いや、ほとんど図星であるし、
そう思われたところで何がある
伝えればいいんだ。よし
す ごく おいし かった か ら、 私 家
を抱 きながら、 俺はボサボサの
く 唯一に 違いない不 思 議 な 願 望
「こ ちらのメー プルカスティー
ラは 東 京 駅 限 定 と なってお り ま
大 阪 出 張を乗り切った。
俺は売り場を背にしており、ま
んでいな かった キャラ クタ ー 像
。
––
が目白なんだけどわざわざ買い
す!」
そして俺は 今 、ここ 東 京 駅に
いる。 本 来であれば、 出 張の帰
るでこの売 店の、 誰 も 建立 を 望
ハキハキ と 快 活で よく 通 る 声
が、 意 気 地 な く 立 ち 尽 く す 俺
中 央 線に向かうのだが、 今日は
り はいつも 疲 労 困 憊で 真っ直 ぐ
違 う。 俺は 人 知れ ず 心に 誓った
こんぱい
お と といも、 出 張 先への 手土 産
の鼓 膜を揺らす。そう。まさに
選びに迷う俺の足を止めた、そ
い」
「あら、もうこれだけなのね。
そうしたらこれ、 全 部 ちょうだ
人 生 は、 メ ー プルカスティー
ラの様には甘くない。
かの如く固まってしまった。
な ぜ 俺はこん なにもスイーツ と
心の中で名 言 風の戯 言 を唱え
な が ら、 俺 は 中 央 線のホームへ
を 果 た すべく、 小 走 りであの売
店へと向かった。
出しの見 た 目 なのか。 なぜメー
メ ー プルカスティー ラ との 再 会
プルカスティー ラ た る お 菓 子 を
ところが、 運 命の再 会 まであ
と一歩 という とこ ろで 重 大 な 問
プルカスティー ラ は 東 京 駅でし
まんまと導かれるように、メー
取 引 先 用 と、 新 幹 線でのおやつ
題 が 発 生 し た。 な ん と 売 店の
と歩き出した。(
の 美 し く 高い声 。二日 前の 俺 は
として自 分 用に購 入した。
店 員さんが、おとといと同じ女
か 買 え ないのか ……。 次々と 湧
あぁ、なぜお姉さんは今日も
シ フ ト を 入 れ てし まったの か。
初 めてだった。 新 幹 線の座 席
で 小 さ く「 う まっ」 と 声に 出し
性なのだ。
無 縁 そ う な“ 柔 道 部 出 身 ” 丸
てし まったの は。 舌の 上で 広 が
き 出 る ネガティブな 疑 問に もん
もんとしている と、 後 方から 穏
writer中込)
る、 重 厚 なのに クド く ないメー
こ れ はつ ま り、で あ る。「 あ
れ? この 人 、 お と といの 朝 も
プルの 甘 さ。一般 的 な カステ ラ
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