ぶらりエキマチ散歩
日本橋

Vol. 15(2017年10月10日号)日本橋室町1丁目

江戸随一の活気を見せた かつて魚河岸があった街

 魚河岸といえば現在では築地を指すが、関東大震災が起こるまでの300年間、日本橋こそが魚河岸の地だった。江戸開府とともに、1603年(慶長8)に日本橋が架かると、水運でさまざまな物資が運ばれるようになる。1656年(明暦2)より、この地に暮らす『日本橋 神茂』18代目の井上卓(たけし)さんによると、魚河岸はもともと「魚類調進所」と呼ぶ幕府直轄の食料集積場として開かれ、ほどなく町人も売買できるように。
 「いい品は江戸城へ納めねばならなくて。初鰹とか、江戸っ子好みの味はムシロで隠して荷揚げしたそうです」
 同じく老舗『山本海苔店』の広報担当の中島美冬さんは「江戸時代の江戸は、日に3000両、魚河岸だけで1000両が動いていたそうです。すごいですよね」と話す。その様子は、地下鉄三越前駅改札外に飾られた「熈代勝覧(きだいしょうらん) 複製絵巻」を眺めるとよくわかる。魚だけでなく、屋台や立売りが立ち並び、華々しいまでの活気と賑わいなのだ。
 魚河岸の活気は、食事処から始まった『弁松総本店』8代目、樋口純一さんの言葉からもビシビシ伝わってくる。
 「魚が傷まないよう、昼前には売り切りたい魚河岸の人たちは、ご飯を食べる暇がなかったんでしょう。折詰弁当にしてくれと言われたそうです」
 昼には店仕舞いする魚河岸だが、「昼からは寿司やそばの屋台が出て、フードコートのようになったんだそうですよ」と、明治期の屋台寿司に始まった『蛇の市本店』の4代目が写真を見せて教えてくれた。朝と午後でがらりと店構えが変わるとは、賑わいが夜まで変わらず続いたのも頷ける。
 震災と戦禍(せんか)で日本橋は大きく変貌した。それでも、「いいものを売ろうというのが、日本橋の誇り」と、『大和屋』の6代目外山順一郎さんは胸を張る。
老舗を訪ね歩けば写真や錦絵なども飾られて興味深いこと!「日本橋の誇り」を味と気っ風で伝え続けている。

  • 熈代勝覧(きだいしょうらん) 複製絵巻
  • 熈代勝覧(きだいしょうらん) 複製絵巻

江戸時代の魚河岸の活気を眺める

熈代勝覧(きだいしょうらん) 複製絵巻

1805年(文化2)頃の日本橋から今川橋に至る大通りが迫力満点。絵巻は釘店(くぎだな)が並ぶ裏河岸を望み、日本橋北側にあった魚河岸は描かれていないが、日本橋川の舟、魚売り、老舗のお店(たな)など、往時の様子が鮮やか。現在、魚河岸跡地にはビルが立ち並ぶ。原画はベルリン国立アジア美術館所蔵。
◎4:40~24:30。地下鉄三越前駅地下コンコース
☎03・3274・6263(名橋「日本橋」保存会事務局)
  • 鰹節専門店 大和屋
  • 鰹節専門店 大和屋

風味のよい鰹節は削りたてが命

鰹節専門店 大和屋

江戸時代末期創業の鰹節専門店。風情ある木造の店舗裏に、今も工房を備え、削りたてを販売。色と形を目利きした本枯鰹節は、割ると刺し身のごとくルビー色で驚く。ふりかけにいい細い糸削り30g880円、おひたしに最適な帯削り30g980円など、用途に合わせた削り節が充実。店内には鰹節アートや、魚河岸時代の錦絵も。
◎三越前駅A1出口徒歩1分。10:00~18:00、日・祝日休。中央区日本橋室町1-5-1
☎03・3241・6551
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  • 日本橋 蛇の市(じゃのいち)本店
  • 日本橋 蛇の市(じゃのいち)本店

魚河岸の屋台寿司の技を引き継ぐ

日本橋 蛇の市(じゃのいち)本店

日本橋発祥地碑あたりで、魚河岸が退(ひ)けたあと、屋台を出していた。現在、暖簾を引き継ぐのは5代目の寳井英晴さんだ。屋台の名残で、ほとんどのネタに煮きり・ツメを塗る。酢と塩だけで作るシャリが酸味絶妙で、口に入れるとにわかにほどけ、ネタの甘みと渾然一体となる。夜のおまかせ握り螺舎(らしゃ)(12貫)3240円~。
◎三越前駅A1出口徒歩1分。11:00~14:00・17:00~22:00、土・日・祝日休。日本橋室町1-6-7 
☎03・3241・3566
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  • 御清水庵 清恵(おしょうずあん きよえ)

日本橋を眺めて越前そばを手繰(たぐ)る

御清水庵 清恵(おしょうずあん きよえ)

日本橋川沿いにあり、魚河岸の面影を肴に、店主の中本好美さんが揃えた福井県の名物を味わいたい。里芋の煮っころがし850円、へしこ800円は、地酒1合900円とともに。福井の在来種を契約農家から仕入れ、外二で手打ちした越前おろしそば850円はもちもち食感。大根の絞り汁にかえしを加えたそば汁で手繰って。
◎地下鉄日本橋駅B6出口徒歩1分。11:00~14:00LO・ 17:00~21:00LO、日昼・土・祝日休。日本橋室町1-8-2日本橋末広ビル1F
☎03・3231・1588
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  • 山本海苔店
  • 山本海苔店

魚河岸に集まる人々に愛された東京名物

山本海苔店

嘉永2年(1849)に創業し、明治期には味附海苔を創案。120以上もの海苔商品が揃うなか、看板は極上銘々海苔「梅の花」2700円~。店内で焼き上げる香り豊かな焼きたて海苔はぜひ試食を。梅やウニの顆粒を挟んだおつまみ海苔648円~も人気。江戸期の海苔の保存甕(びん)を展示し、船底天井、海苔の細胞をイメージした陶板タイルなどの意匠も斬新。
◎三越前駅A1出口徒歩1分。9:30~18:00、無休。日本橋室町1-6-3
☎03・3241・0290
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  • 日本橋 神茂(かんも) 本店

白く淡く上品な半ぺんの老舗

日本橋 神茂(かんも) 本店

創始者の出身地関西で知られる、ハモを原料とした練りもの「あんぺい」。それを基に江戸前のサメで作られたのが半ぺんで、明治期~昭和にかけて宮内庁御用達札(写真上)を持った。手取り半ぺん422円は、寿司屋では旨味と口当たりをよくするために卵焼きに入れるとか。トースターで約2分焼き、薬味と生姜醤油で味わうのもいい。
◎三越前駅A1出口徒歩2分。10:00~18:00(土は~17:00)、日・祝日休。日本橋室町1-11-8 
☎03・3241・3988
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  • 日本橋 弁松(べんまつ)総本店
  • 日本橋 弁松(べんまつ)総本店

江戸っ子の味を引き継ぐ折詰弁当

日本橋 弁松(べんまつ)総本店

魚河岸の人が空いた時間に味わうために作られた折詰弁当の並六(白飯弁当)1080円は、まさに江戸の味。砂糖と醤油で煮しめた根菜、その煮汁で照り焼きにした魚など、酒のアテにも抜群で、甘いきんとんは江戸のスイーツ。2日前までに要予約。明治期には桶入り酒肴を料亭に出し、広告掲載されたそう。
◎三越前駅A1出口徒歩2分。注文は8:30~16:00(土・日・祝日は~13:00)、受け取りは9:30~15:00(土・日・祝日は~12:30)、無休。日本橋室町1-10-7
☎03・3279・2361
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  • 大栄不動産旧本社ビル(旧帝国製麻本社ビル)

街にシンボルがあった頃

大栄不動産旧本社ビル(旧帝国製麻本社ビル)

かつて日本橋と共に名所と誉れ高き建物があった。細長い赤レンガ造りは191 3年(大正2)築。バルコニーを川側に設え、屋上ドームを冠り、絵葉書になるほどの美しさだった。設計は、翌年完成の東京駅と同じ、辰野金吾だ。
1989年(平成元)に建て替えたが、現在、本社ビルの玄関にレリーフ付き窓枠と模型を展示する。※模型は『タイムドーム明石』で10月中旬~12月中旬貸出し展示。
◎日本橋駅B5出口徒歩1分。9時~17時20分、土・日・祝日休。日本橋室町1-1-8
☎03・3244・0625
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